ネタバレしない推理小説、あります。
「推理小説」には、大きく2つの種類に分けられるように思います。
一つは、探偵役の登場人物が容疑者の中から犯人を絞り込んでいくもの。この種の小説は、読者にも犯罪の全貌が明らかにされておらず、犯人を指し示す手掛かりが文中に提示され、読者が探偵役の登場人物より早く犯人を見つけることができるか、知恵比べができるようになっていたりします。
もう一つは、読者に対してはあらかじめ犯人が明らかにされており、探偵役の登場人物が犯人を追い詰めていくもの。読者は、探偵と犯人の攻防を手に汗握りながら見守ることになります。
そして、どちらも、いわゆる「解決編」があるのが普通です。(解決しない推理小説なんて、フラストレーションがたまるだけですから)
前者では、容疑者を一か所に集め、探偵が「犯人はこの中にいる!」といった決め台詞とともに犯人を名指しするのが、後者では、探偵が犯人に「あなたはたった一つ、ミスをしました…」といった決め台詞とともに、言い逃れができない証拠を突き付けるのが黄金パターンです。
そしてどちらのパターンでも、先に「解決編」を読むとネタバレします。(当たり前です)
ところが、この本は、文章としての「解決編」が存在しません。章の最終ページに1枚の「何気ない」写真があるだけです。そして写真「だけ」を見ても、それにどんな意味があるのかわかりません。
写真の前には、なにか事件らしき出来事が描かれている文章がありますが、犯人はもちろん被害者すらも判然とせず、「何かが起きている」という感覚だけを抱かせます。
しかし、「何かが起きている」文章を読み、そのあとに写真を見ると、どんな事件が起きていたのかが推測できるようになり、「あっ!」や、「あーーっ!」という感嘆符が口から洩れることになります。
冒頭から順番に読む人にはもちろん、ついつい「解決編」を先に読んでしまい、ネタバレ状態で推理小説を読んでいる人にも、ネタバレが起きないので、面白く読める本です。
(司書 中島)