2021年8月、アフガニスタンの政権は崩壊し、タリバンが実権を握りました。メディアは連日タリバンから逃れようとする人々の映像を流しました。
タリバンは悪魔のような組織なのでしょうか?
でも、ちょっと待って。アフガニスタンの政権が崩壊したのは、後ろ盾となっていた米軍を中心とするNATO軍が撤退したからであり、また逃れようとする多くの人々の映像を流していた日本を含む欧米諸国は、積極的に逃れてくるアフガニスタン人を受け入れたという事実もありません。
イスラム「国家」と言っても、多数の部族・宗派がひしめき合って暮らしているアフガニスタンは、それらの部族の代表が永延と議論をして物事を決めていく形の国家でした。多数派が全体のことをぱっぱと決めてしまう「民主主義」や「国家」という形は、もともとこの地域にそぐわないものだったと著者は書いています。
民主主義を掲げて突然やってきた米軍に爆撃されることはあっても、援助は政府の一部の人たちに握られて民衆には届かない。当然、多くの国民は米軍に恨みの感情しか持ちません。この辺りはベトナム戦争とも似ているかもしれませんね。
アフガニスタンで長年医療支援や用水路の建設を行ってきた故中村哲医師の言葉も多数紹介されています。例えば、こう言っています。「民主主義や自由や人権を持ってくるなら、戦闘機とミサイルでもってくるな」と。
諸外国がいくら援助をしても、多数の軍閥(部族)の上層部に流れているだけで、多くの国民は貧困状態です。兵士の多くは「食えない」から、お金をくれる軍に雇われているだけだと中村医師は書いていたそうです。「欧米が支援していると言っているのに、自分たちのところにはどうして何も来ないのか」という感情があるところに、国軍の兵士になってタリバンと戦えと言われても、民主主義を勝ち取る、などという意識は皆無なのです。
このように、タリバンやイスラム教の考え方の解説にとどまらず、なぜ欧米の民主主義が受け入れられないのかや、女性に対する考え方の違いなども解説しています。
「文化の違い」について考えてみるきっかけになる本です。
余談ですが、欧米とイスラムという対決構図でみると、まるでキリスト教とイスラム教は敵対しているように見えますが、実は想定している『神』は同じです。コーラン(最近はクルアーンと訳されることも多いですね)と聖書には同じ登場人物がたくさん出てきます。天使ガブリエルはコーランではジブリール、アブラハムはイブラーヒム、ノアはヌーフ…というように。イスラム研究者である著者の内藤先生は、同志社大学(キリスト教学校)の教授です。
久保先生にもお話しを伺ってみてくださいね、キリスト教とイスラム教のことを。
(司書 山中)