ゴールドラッシュ。極北の地、アラスカで巻き起こった狂乱に満ちた大騒動。この時に何が起こっていたのか。物語(フィクション)という形をとりつつも、現地の人々(イヌイット、本書ではイニュイと表記されている)とアメリカからやってきたヨーロッパ系のいわゆる白人との衝突を知ることができる物語。自然を愛し、畏怖の念を抱きつつ共存するイヌイットの人々の生き方を綴る記述や美しい自然を描く表現なども魅力的である。
「運さえよければ誰でも大金持ちになれる。身分も人種も関係ない好機が氷の大地で待ち受けている。」こう信じて、アメリカ本土で恵まれない生活をしていた人々が、黄金の夢を見て身ひとつでアラスカにやって来る。これを、極北の地で悠久の時を過ごしてきたイヌイットの生活を荒らす悪人、とバッサリと切ることはできない。アラスカの複雑な歴史を垣間見つつ、主人公の日本人少年を通してスリルと感動も味わうことのできる冒険物語だ。
(司書 山中)