『小僧の神様 他十篇』より「流行感冒」
およそ100年前、世界中を震撼させた感染症、スペイン風邪が流行しました。日本もその余波を避けられず、1918年(大正7年)スペイン風邪が大流行します。そしてその翌年、小説『流行感冒』が発表されました。
主人公の「私」は第一子を亡くした経験から、一人娘左枝子を外聞も気にせず異常なまでに神経を使い育てていましたが、とうとう親子が住む町にも流行性感冒が忍び寄ります。女中にも細心の注意を払うようきつく言い渡しておいたのですが、石という女中は私に嘘をつき、人が集まる芝居を観に行っていたのです。私は憤りから石に暇を出すと決めていたのですが、妻の言い分をくみ取り思いとどまることに。その後、石以外私の家の者は全員感冒に罹ってしまいます。常に不安と石への不信を抱えながら生きる私も石の献身的な働きに触れ、心に変化が生じ始めるのです。
今感染症が蔓延する中、私たちが抱える問題を描き出し、自らを見つめ直すきっかけになる小説です。
(司書 古川)