文藝春秋社『オール讀物』1月号掲載
「コロナ禍でのストレス?大学生が会社員を暴行」という新聞の見出しで始まります。そして、主人公の大学・生耀太(ようた)と、高校生の娘の母親である未希子(みきこ)の恋心を秘めたやり取りを軸に物語は進んでいきます。
コロナ禍での2020年春の緊急事態宣言をうけた自粛生活、その期間、一人で過ごしたのか家族と過ごしたのか、友達や恋人と連絡を頻繁にとっていたのか、その中で絆が深まったと感じたのかぎくしゃくしたと感じたのか、地方にいたのか東京にいたのか…立場や状況によって見えた景色は様々なはず。上京したばかりの一人暮らしの大学生にふりかかる事件を通して、現代の「人の繋がり」について考えさせられる作品です。繋がる道具はSNS、扱う事件がロマンス詐欺(恋心に付け込んだ詐欺)、というところも、まるで「人と繋がる」ことは避けては通れないような、現代の社会を描いている作品です。
耀太と未希子のロマンスの行方は…あっと驚く結末。でも、読んだ後は続きが読みたくなる温かさを残すところが、辻村さんらしい作品だと思います。短編です。すぐに読めます。
文芸雑誌、敷居が高く感じられるかもしれませんが、一回で完結する短編も数多く掲載されているので、まとまった時間がない人にもおすすめです。図書館ではこういう雑誌を4種類購入しています。
(司書:山中)