『坂の上』の雲は全8巻。8巻と聞くと、読み切れる気がしないと思うかもしれません。ですが、司馬作品は読み始めたらページをめくるのが止まらないくらいに面白いのです。まるで、そばで見てきたのかと思うほど登場人物が鮮やかに描かれていて、彼らの行動や心情に「どうなってしまうのか」と、目が離せなくなります。
この作品の主人公は俳人の正岡子規と、「貧しさの中でも学びたい」という理由で軍隊に入った秋山兄弟です。子規は優れた作品を生み出していきましたが、病にたおれ、35年の短い人生を閉じました。秋山兄弟は軍人として頭角を現していき、日露戦争へと向かっていきます。
日清、日露と不敗の大日本帝国ですが、実際は日露戦争で勝利を納めるには大変な犠牲を払いました。武士道に厚い英雄と称される乃木希典の苦悩と悲哀、何としてでも勝利へと導かんとする児玉源太郎の豪快さ。教科書では威厳漂う近寄りがたい存在ですが、読めば人間味を感じて親近感が湧いてきます。もしかしたら、こんなおじさんが親戚にいるかもしれませんね。
(司書 寺内)